留学体験記

インターンシップ体験記

おもてなしの心を忘れなければ、必ず伝わる

篠原 望さん
場所: ニューヨーク 業種: 販売員 期間: 18ヶ月

インポートショップでの販売員を経験後、ニューヨーク語学留学。その後再びニューヨークで18か月間のインターンシップ生活を送っている篠原望(しのはら のぞみ)さんに、インターンシップを決めたきっかけや想いをインタビューしてみました。

きっかけは、ショップでの苦い経験

インポートショップでの販売員を経験後、ニューヨーク語学留学。その後再びニューヨークで18か月間のインターンシップ生活を送っている篠原望(しのはら のぞみ)さんに、インターンシップを決めたきっかけや想いをインタビューしてみました。

インターンとしてNYに来る前は、外国人居住者やインターナショナルスクールが多い国際色豊かな土地で、インポートショップの販売員として働いていた篠原さん。同じ会社の先輩達は海外買付もバリバリこなすほど英語が堪能で、毎日刺激のある環境だった。勤めていたインポートショップには、土地柄もあり日本のサイズが体に合わない外国人のお客様がたびたび足を運んでくれたが、おススメする商品に対する想いや、相手へ伝えたいメッセージが伝わりきらず、満足な接客ができていない自分にもどかしさを感じていたという。以前に留学経験があったのでもう一度留学することも考えたが、「語学を学んできました。」だけではもはや今の自分の将来に価値はないことはわかっていた。そんな矢先、「思い切って、みんなと違うことをしてこい!」と日ごろから信頼していた上司に背中を押され、「留学」ではなく「インターンシップ」という形で「海外で働く自分」にチャレンジしてみることを思い切って決めた。

行き先は最初からニューヨークと決めていたわけでなく、ロンドンも同じく視野にあったが、アパレル業界一筋の篠原さんにとって、ファッションウィークやニューヨークコレクションなど世界のトレンド発信地であるこの街は憧れの地。「ニューヨークの英語は早いのでそこで慣れたらどこでもやってけるんじゃない?」そんな友達の言葉も手伝って、ここニューヨークでキャリアを積むことに決めたのだった。

歳を取っても一生モノの、着物の知識を身に着けたい

いざ海外で生活するとなった時、「留学」の他に「インターンシップ」という選択肢があることは以前留学していた時にリサーチ済みだった。でもJ1ビザの申請手順や必要書類について、手続きを進めるにあたりとても一人では不安だったので、今回はエージェントを通して手続きを進めることに。エージェントを通すと手続き代行してくれるだけではなく、J1インターン生が研修可能な様々な職種のホストカンパニーを紹介してもらえる。篠原さんの希望はもちろんアパレル業界。洋服ももちろん大好きだけど、いくつになっても末永くつきあっていける和服(着物)にも、もともと興味があり、知識を深めたいという想いもあった。

エージェントにいろいろなカンパニーを紹介してもらう中、NYで日本の伝統文化の素晴らしさを世界へ発信し続けている「きてや」に出会い、ここは今後の自分にとって限りない可能性が広がるぴったりすぎるカンパニーだと確信した。加えて、インポートショップでの販売経験を通して、外国人視点から見た日本の雑貨への反応も見てみたかったという想いもすべてフィットし、すぐにチャレンジしてみることを決めた。1人ですべてをやりぬくことにこだわるより、効率よく他人の力を借りて目標達成することも知恵のひとつ。「エージェントを通したことで、苦労すると思っていた手続きや書類準備がスムーズにでき、また自分にぴったりなカンパニーも見つけることができたので、とても満足しています。」と気持ちよくスタートラインを切れた様子だ。

おもてなしの心を 忘れなければ、必ず伝わる

こうして万を期してニューヨークでのインターンシップ生活がスタートしたはずだったが、全てが思い通りに進むほど現実は甘くはなかった。過去に一度留学経験があったはずなのに、最初はまったく英語が通じず、話かけるたびに何度も聞き直されて辛い毎日を送った。自分が伝えたいことを伝える前にお客様に先に言われてしまうなど、再び満足に接客ができないことを気負う日々。だんだんと自信を失いかけていた時、まさか自分がかかると思っていなかったホームシックも体験することに・・。そんな元気のない姿が伝わってしまったのか、会社の先輩達が何気なく気遣ってくれ、業務終了後に何度も自宅に招待してくれてご飯を一緒に食べたりしてくれたりなど、周りの人達が人寂しく元気がなかった時期をやさしくサポートしてくれたという。

もいつまでも落ち込んでばかりはいられない。篠原さんには、「きてや」でインターンシップにチャレンジしてみる、と決めた理由と自分なりの目標があり、扱っている商品に対する想いはもちろん、せっかくお店に足を運んできてくれたお客様一人ひとりに伝えたい気持ちがある。だから簡単には諦めたくなかった。

こうなったらなんとかして自分の言葉を伝えようと、あれこれジェスチャーなど交えて努力を繰り返してみた。すると不思議なことに、相手も何とかそんな気持ちを受け入れようとしてくれるようになり、段々と心と言葉でしっかり会話ができるようになるもの。 「きてや」のコンセプトは「日本ならではのおもてなしの心を大切にする接客」。その気持ちを思い出し、「がむしゃらに体当たりするだけでなく、たとえ言葉が通じなくても、おもてなしの心を忘れるまい、と来店した小さな男の子に折り紙の手裏剣を渡したことがあったんです。」男の子は折り紙の手裏剣が大好きでしかたなくなり、家に帰ったあとも、毎日ひと時も離さなかいくらい、すぐに男の子のお気に入りになった。その日から数か月たった後、プレゼントしてくれた感謝の気持ちのお返しに、とその年のクリスマスに男の子のお父さんからクリスマスギフトが贈られてきたことがあったという。接客業をしていてこれほど嬉しいことはないのではないだろうか。 こういったエピソードは彼女の暖かい人柄がなせる技だし、相手を思いやる気持ちが伝わった証拠だろう。インタビューの後でお店のオーナーがこっそり教えてくれたことだが、「きてや」でも、商品目当てではなく、篠原さんに会いに来るお客さんも絶えないのだとか。

たくさんの気持ちと贈り物は一生の想い出

そんな篠原さんには心温まるエピソードがまだまだ絶えない。「渡米前に働いていたインポートショップで、辞める間際にお世話になっていたお客様や周りの人達に、お別れのお手紙を手書きで書いたんです。そしたら、思ってもみなかったほどたくさんの人達が、自分を見送りに会いにお店にわざわざ来てくれたんです…。」よほどみんなの気持ちが嬉しかったのだろう、その時の感情が再びこみあげてきた篠原さんから思わず涙があふれた。みんなは篠原さんへプレゼントや手紙を持って、これからの海外生活を応援しにきてくれたのだ。当時の上司には、「こんなに来店してくれているならついでにちゃんと何か買って行ってもらって!」と冗談半分せかされたりもしたが、そうやって事実みんなにかわいがってもらえるのも、誰もができることではない。篠原さんが、お客様との距離を大切にし、相手を思いやる気持ちをもって接客しているからこそ得られるものだろう。

「日本に帰ってもお客様と直接触れ合えて、気持ちが伝え合える販売現場はこれからも当分離れたくはない。インターン期間が終わったら日本に戻ってまたアパレルの現場に戻りたい。」今まではっきりとした目標なく販売員を続けてきたが、このインターンシップを通して、アパレル業界での自分の立ち位置に対してぶれない気持ちを再確認し、自分に自信がついてきたことも加わって、新たに店長になる夢も加わった。「起業の予定は?」との質問には「私は人の下にいるくらいがちょうどいいんです。」と謙虚な面持ち。インターンシップを通して自分の弱みや強みもいっそう明確になったのかもしれない。「きてや」のオーナー景子さんは、「私達のお店でのインターンシップ経験を通し、一人ひとりが自分のためにできることを最大限にしてほしい。」と寛大な気持ちの持ち主。「せっかくの海外生活なのだから、できるだけのことを吸収し、自分にとって最大限に実のあるものにしてほしいですね。」と続けて語る。

そんなお店側からの柔軟で有難い心使いもあり、篠原さんは数か月前から仕事の時間を多少調節し、ニューヨークの2大美術大学であるパーソンズスクールにて、ファッショントレンドクラスや、Retail Buying のクラスを受講させてもらっている。アパレル業界に関する理論を学ぶことで、今まで現場で身に着けた経験・知識が体系化され、今まではよくわからなかった貿易関連の書類も読めるようになった。アメリカのお客様はお店が提供するものに対して決して受け身な姿勢ではなく、「もっとこうした方が良く見えるよ。」「こういう商品を扱ってほしい。」などとお客様が活発に意見をくれる。篠原さんもそんな言葉に応えるべく、自分にできることはどんどんチャレンジしていこうと、ギフトラッピングを自ら考案したり、お店のディスプレイを積極的に手掛け始めたという。

ここ最近の嬉しかったエピソードは、自分が考えたギフトラッピングがきっかけで、アパレル関連のお客様からPRのお仕事依頼がきたり、自分がコーディネートしたディスプレイ一式を上から下まですべて購入してくれたお客様がいたこと。海外のお客様は、人としては優しくても、良いものは良い、悪いものは悪い、と物を見る目にはシビアなので、刺激をもらっているという。その反面、努力したぶん結果として目に見えるので、きっとやりがいも大きいはず。 世界中どこにいても、自分に会いに来てくれる人がいる、愛されキャラの篠原さん。笑顔を絶やさず一生懸命な姿勢で新たなことにチャレンジする彼女に、周囲の人々も限りない可能性を感じていることだろう。

スーパーバイザーからの一言

日本人でもアメリカ生活が長いと、どうしてもアメリカのリズムに慣れてしまいがちですよね。きてやは「日本のサービスをNYで」をコンセプトとして展開しておりますが、日本から来たばかりの篠原さんは日本のリズムが崩れておらず、テンポもテキパキして接客の質が高いので、会社にとっても刺激になって非常に貴重な存在です。

私達はSOHOにお店を構えてから約4年になりますが、おかげさまで日本人以外のお客様にも知っていただき、今では85%以上が外国人のお客様のため、いろいろな国の人と接客するチャンスがあると思います。英語が完璧ではなくても一生懸命伝えようとすれば相手も理解しようと努力してくれますし、日本人の文化とはまた違った価値観やモノの見方が学べると思います。また、私達が商品として扱っている日本製の素晴らしさ・日本の誇りを今一度考えなおすチャンスですから、積極的に動いて、できるだけのことを吸収して帰ってほしいですね。